ヒトラーの「カリスマ性」とポピュリズムの「レトリック」
きっかけは「ポピュリズム」への興味
『ヒトラーの演説』という本が面白い
- 作者: 高田博行
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/06/24
- メディア: 新書
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トランプを象徴とする「ポピュリズム」について最近興味を持っていた
「ポピュリズム」について説明を加えるとこんな感じ
ポピュリズムとは
一般大衆の利益や権利、願望、不安や恐れを利用して
大衆の支持のもとに、既存のエリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想、または政治姿勢
のことである。
要は
人々の「感情」を掻き立てることで支持を獲得していく考え・スタンス
これを実践している人を
「ポピュリスト」と呼ぶ
関連する本がないか書店に出向くと、やはりトランプ関連本が多かった
しかし、このテーマは少し過去から学びたいかなーと思ったので
トランプではなくヒトラーの本を読んでみたという経緯
結果的に、ポピュリストへの理解が深まるとともに
自分が抱いていた「ヒトラー像」を更新することができた
以下、『ヒトラーの演説』を読んで最も印象に残った
「彼のカリスマ性の検証」について書いていく
ヒトラーは「カリスマ」だったのか?
この本の最大の特徴は
ヒトラーのイメージとして強い「カリスマ性」を取り上げつつ
それを批判的に検証しているところにあるだろう
著者の高田博行氏は25年間・150万語の演説データを通してヒトラーの実像を描こうとしている
僕たちがヒトラーの「カリスマ性」をイメージするとき
最初に思い浮かぶのは
彼が人々に「演説」している風景だろう
(日本語字幕がついているので、ぜひスピーチの「表現パターン」に注目しながら観て欲しい)
ヒトラーを取り上げているテレビ番組でこうした映像をよく見かける
しかし、ヒトラーが政権を獲得した1年半後には既に飽きられ始めていたという
本では次のように書かれている
ヒトラー演説は、ラジオと映画というメディアを獲得することによって、その威力は理論値としては最大になった。
ところが
民衆における受容といういわば実測値においては、演説の威力は下降線を描いていったのである。
政権獲得は1933年だから、その1年半後となると1935年になる
終戦の10年前には彼のカリスマ性が下降線を辿っていたことには驚いた
(逆に、下降し始めてから10年持ったということでもあるが)
人のイメージって、1番際立つ部分から形成されるとしても、それがその人の全てではないということに注意しないとなーと思った
「スピーチ表現」に表れる「ポピュリズム」
本を手に取る直接的動機であった「ポピュリズム」については
特に演説の「レトリック」に関する内容が興味深かった
ヒトラーがよく好んで用いた「レトリック」として
「仮定表現」と「対比法」を挙げている
「仮定表現」については
議論する上で都合の良い事柄を作り出す役割を果たし
「対比法」については
「AではなくB」という構文を用いることで、Aを否定しつつBをアピールする役割を果たす
(高校英語で「not A but B」習った時のこと思い出した)
さっき挙げた動画の4:49~5:20にはそれこそ
「対比法」=「AではなくB」が用いられている
(Aではなく)
過去の14年間の悲劇的崩壊は忘れ
(B)
ドイツ2000年の歴史を思い出すのだ
(Aではなく①)
もはやドイツ国民に不名誉や衰退の言葉は不要だ
(Aではなく②)
虚弱や不誠実の表現も無用のものとなった
(B)
神よ 強さは戻った
彼の演説によって表象されていたカリスマ性の背景には
こうした理論による下支えがあったということなのだろうか
特に「対比法」については、優劣関係を強調するという点でも有効なレトリックだと思った
言葉の裏にある「メッセージ」に注目
読み進めながら、現代のポピュリストが頭に浮かんできた
「金持ちではなく労働者を」
「難民ではなくアメリカ国民を」
ヒトラーに限らず、時代を超えてポピュリスト達に広く共有されているレトリックは存在するだろう
言葉それ自体ではなく
その言葉の持つメッセージに反応していきたい
(やはりサラッと読むとアフトプット薄くなるので、次はもう少し読み込んでからにしよう...)
おしまい